両建時の証拠金

 同一銘柄の片側のみの単純なポジション(例えば、金23年6月限10枚買い建玉をもつだけ)に限らず、実際にはある銘柄の同じ限月で買い建玉と売り建玉同時に持つ(「両建(リョウダテ)」という)とか、ある銘柄のある限月は買い建玉を持ち同じ銘柄の別の限月は売り建玉持つといった状況もあります。このような状況では、先物取引やCFD・FXなどそれぞれのサービスを取り扱う取引業者によって必要な証拠金に違いが出てきます。違いを理解するために、現在取引業者により採用されている証拠金計算方式を「SPAN」・「片側MAX」・「積み上げ」・「ネッティング」に大別して説明します。

 なお、「SPAN」以外の方式も先物取引においては「SPAN」の中の機能を取捨選択することで実現しておりますが、便宜上それぞれ別のものとして取り上げます。各取引業者によって証拠金の計算方式の細部に違いがありますので、取引をされる際には口座開設前に渡される「契約手結前交付書面」などでご確認ください。

 取り扱いサービス別に採られる証拠金計算方式をまとめたものが以下の表です。

取扱サービス主な銘柄証拠金計算方式
株価指数先物取引日経225先物・TOPIX先物SPAN・片側MAX・積み上げ
商品先物取引(OSE)金先物・白金先物
商品先物取引(TOCOM、堂島取引所)ドバイ原油先物・LNG先物・コメ先物
取引所CFD日経225・NYダウ・金・原油ネッティング
取引所FXドル円・ユーロ円・ユーロドル片側MAX
店頭CFD金・原油・日経225片側MAX・積み上げ
店頭FXドル円・ユーロ円・ユーロドル
暗号資産証拠金取引ビットコイン・イーサリアム

SPAN方式

 先物取引において採用されている方式です。PSRはそれぞれの銘柄の過去の値動きの大きさなどから計算され1枚あたりの証拠金の基準となりますが、証拠金は取引の担保として必要なものでその設定は1日の値動きで概ね想定される最大の損失額をカバーできる(証拠金額の範囲内に収まる)ような金額となります。このようにリスク量に応じて証拠金が決定されますが、SPAN準拠の証拠金制度ではリスクを低減させる取引も考慮されます。

 SPAN方式では、買い建玉と売り建玉を持つ場合、その建玉同士の相関性に応じて必要となる証拠金が減額されます。減額されるものとして主に3種類あり、「ネットポジション」、「商品内スプレッド割増額」(割増額と記載していますが実質的には割引となります)と「商品間スプレッド割引額」です。

表1.ポートフォリオ
4月限6月限
51041

 1.「ネットポジション」では、証拠金計算上それぞれ同一銘柄、同一限月の売り買いの建玉は相殺され、残った建玉が証拠金計算の対象となります。上記(表.1)の例では、4月限買い10枚ー4月限売り5枚=4月限買い5枚、6月限売り4枚ー6月限買い1枚=6月限売り3枚

 2.「商品内スプレッド割増額」では、異なる限月であっても同一銘柄間の建玉をネットポジションの計算と同様の方法で一旦差し引きします。ただし異なる限月間で相殺されたものの実際はその限月間では動きに差があるので、差が生じる分のリスクを証拠金に反映する形をとります。上記の例では、4月限買い5枚ー6月限売り3枚=買い2枚商品内スプレッド数3。「商品内スプレッド数」は限月間で相殺された枚数(セット)のことをいいます。

 3.「商品間スプレッド割引額」では、異なる商品であっても一定の相関が認められる場合は証拠金計算において減額の対象となります。商品間スプレッド割引の対象となっていますので、計算の詳細は割愛しますが、上記から対応する商品間スプレッド割引額が差し引かれます。金先物・白金先物間、ガソリン先物・原油先物間、株価指数先物の日経225先物・TOPIX先物間、日経225先物・マザーズ指数先物間などが割引の対象となります。

 よって、「金2枚×(金のPSR)+金商品内スプレッド数3×(商品内スプレッド割増額)ー(商品間スプレッド割引額)」が必要な証拠金となります。

 一方で証拠金が増額されるケースもあります。保有する建玉の取引最終日まで日数が少ないものに対して、流動性の低下による価格変動リスクの上昇を担保するために設定される「納会月割増額」です。これは国内商品先物取引の一部の銘柄のみに課されます。上記の金に課されることは実際のところあまりありませんし、より期限の長い期先限月へ早めに乗り換えを行うことで回避できます。

「商品内スプレッド割増額」や「商品間スプレッド割引額」の計算上必要な「商品間デルタ/スプレッド比率」・「商品間スプレッドクレジットレート」、「納会月割増額」はPSRと同様に日本証券クリアリング機構(JSCC)から公表されます。

片側MAX方式

 片側MAX方式(両建MAX方式、単にMAX方式などともいう)では、同一銘柄で限月を問わず売り建玉枚数と買い建玉枚数をそれぞれ合計したものを比較しどちらか大きいほうの建玉枚数に対して証拠金を掛けるという計算がなされます。SPAN方式では一部の建玉を決済した際に結果的にトータルの証拠金が増えるなど直感的に理解しにくい面があることや、SPAN方式よりも結果的に多めに証拠金を課すことで過度にリスクを取らない・取れないようにするという配慮から採用されている方式です。SPAN方式で見た(表.1)の例では、4月限売り5枚+6月限売り4枚=売り9枚、4月限買い10枚+6月限買い1枚=買い11枚となり、売り9枚に対して買い11枚のほうが大きいので、証拠金は11枚×(金の1枚あたりの証拠金(先物取引ではPSR))となります。商品先物取引では、SPAN方式でも述べた納会月割増額については同様に掛かりますが、当限の売り建玉枚数と買い建玉枚数の大きいほうの建玉枚数に対して証拠金が掛かる場合と、当限の売り枚数・買い枚数の合計に対して掛かる場合があり、取引業者によって異なります。

 なお、限月のある取引対象のCFDの場合は別のものとして取り扱われ、例えば原油4月限CFD買い4枚と原油5月限CFD売り2枚の場合買い4枚にだけ証拠金が掛かるとはならず、買い4枚、売り2枚それぞれに証拠金が掛かります。

積み上げ方式

 積み上げ方式では、売り買いの別なく建玉枚数に1枚あたりの証拠金を乗じた分の証拠金が掛かる計算がなされます。先ほどと同様に(表.1)を例にとると、4月限売り5枚+4月限買い10枚+6月限売り4枚+6月限買い1枚=20枚、20枚×(金の1枚あたりの証拠金)が必要な証拠金となります。

ネッティング方式

 ネッティング方式は、取引所CFD(くりっく株365)において採用されている証拠金計算方式で、SPAN方式1.で述べたネットポジションの部分と同様に、同一銘柄の売り枚数と買い枚数の差に対して証拠金が掛かります。

表2.ポートフォリオ
日経225CFD
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 上記(表2.)の例では、日経225CFD売り5枚ー買い10枚=5枚が証拠金計算の対象となります。くりっく株365における日経225CFDの1枚あたりの証拠金は取引所CFD・取引所FXの証拠金で説明したように株価指数証拠金基準額として確認でき、5枚×(株価指数証拠金基準額)が必要な証拠金となります。